あなたはどの戦国大名のもとで働きたい?~企業として見た織田家~

偉人コラム

「麒麟がくる」で改善した明智光秀のイメージ

NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の評判がよい。コロナで中断したものの、再開後も視聴率は好調だ。もちろん、私も楽しみにしている。

それと同時に、主役である明智光秀の意外な素顔にも注目が集まっている。革命児・信長にクーデーターを起こした裏切り者……そんな従来、一般的に多かったイメージもすっかり払拭しつつあるといっていいだろう。「明智光秀=本能寺の変」では、もはやなくなっている。

もちろん、光秀が見直されてきたからといって、殺された織田信長がただの暴君だったということには、もちろんならない。かくいう私も前のペンネームで『暴君の素顔』という本を書き(2020年に文庫化)、信長の所業を紹介してはいるが、残虐行為の真の意図についても触れている。


信長に限らずだが、歴史人物は白黒とはっきり評価できるものではない。それを大前提としたうえで、「名立たる戦国大名の領地経営を、現代の会社の経営に起きかえたならば、どんなふうだったのか?」というイフに挑戦したのが、先日発刊した『企業として見た戦国大名』(彩図社)である。

信長なりに家臣を気遣っていた

トップバッターは、やはり織田家である。信長の代になってから、領土を拡張した織田家は、現代の企業でいえば、機動力の高いベンチャー企業そのものだ。

なにしろ、信長はわずか1年で、尾張下半国の拠点である清洲城のほか、那古野城、守山城を掌中にしてしまう。その決断力と行動力は、並み居る戦国武将たちをも圧倒し、戦乱のなか、メキメキと頭角を現すことになる。

人材も実力主義でどんどん抜擢したのも、ベンチャー企業の織田家ならではだろう。そんな社風だからこそ出世できたのが、秀吉である。そして、その秀吉よりも、高く評価された幹部社員、それこそが、光秀である。光秀は、家中で最初に城持ち大名に選ばれている。みながうらやむ出世頭だったのだ。

さて、ひたすら我が強いイメージをもたれがちな信長だが、どんなタイプの「社長」だったか。ふんぞり返っていたわけでは、もちろんない。ベンチャー企業らしく、自ら指揮をとって勝負をしかけていく。その一方で、部下にあたる家臣たちには、驚くほどきめ細かいマネジメントをしていたことは、それほど知られていない。

企業として見た戦国大名』では、信長が家臣のモチベーションをあげるために、どんな工夫をしていたかを解説した。というのも、領土を与えるにも限度がある。その代わりに、モチベーションを上げるアメが必要で、信長は代わりのものをちゃんと用意し、今でいう資格制度のようなシステムまで創り上げていた。

さらに、家臣に平等にチャンスを与えられていたのも、ベンチャー企業、いや、織田家の特徴である。やればやるほど、成果を出せば出すほど、見返りも大きい――そんな織田家が企業説明会を開いたならば、血気盛んな新卒たちの応募が殺到したことだろう。

ベンチャー企業の良さはあるが……

しかし、もちろん、良いこと尽くしの会社など存在しないように、織田家にもマイナスポイントはある。

まずは、社長がワンマンであること。家臣がいかに信長を恐れていたかは、宣教師のルイス・フロイスが驚いて記録しているくらいである。

また、結果が残せなければ、転勤にクビと容赦ないのも、決して「働きやすい環境」とは言いがたいだろう。そのことは、一番の出世頭でありながら、最終的に「本能寺の変」を起こした光秀が実感したことかもしれない。

信長と光秀の関係はどうなっていくのか――。これからも、いよいよ目が離せない大河「麒麟が来る」。それは、一番のお気に入りの部下に対して、ワンマン社長はどう心変わりしたのか。組織の本質を垣間見ることでもある。

これからは「自分が織田家に使える身だったら……」という観点で、「麒麟が来る」を観てみても面白いかもしれない。

【『企業として見た戦国大名』目次】
織田家 実力主義でトップが恐いベンチャー企業
豊臣家 企業買収で急成長した新興企業
徳川家 人材を生かして組織力を強化したホワイト企業
武田家 アピール上手だけど内情は危ない老舗企業
上杉家 努力や苦労が報われないブラック企業
毛利家 一大グループを作った理想的なホワイト企業
今川家 ベンチャーに追い込まれた名門企業
北条家 従業員ファーストの大手企業
真田家 すき間産業で生き抜いた中小企業
大友家 地方で急成長したグローバル企業
伊達家 したたかな社長率いる体育会系企業
朝倉家 カリスマ社長とベテラン社員が支えた老舗企業
長宗我部家 中央進出をもくろんだ上昇志向の地方企業

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